陶房の風をきく~ 唐津 矢野直人展

バタバタしているうちにあっという間に過ぎてゆく毎日。季節の巡りさえ、暑くなった、寒くなった、風が吹いた、雨が降った…そんな印象を追うだけ、ほとんど感じられないような忙しない日々です。

それでも、どなたにでもふと季節の巡りを感じる瞬間があるのではないでしょうか。それは天気や温度だったり、風の運ぶ香りだったり、そこそこで咲く花だったり。私はと言いますと、食べることが大好きなので、食べもので季節を感じることが多いです。


水無月、というお菓子があります。白いういろうの上面に煮小豆をのせ、三角に切り分けたもの。夏越しの祓が行われる6月30日に、1年の残り半分、無病息災を願って食べる、それです。

今年も店頭に並び出しました。そうなれば、どうしても食べずにはいられません。1年でも食べられるのはこの時期だけで、ういろう好き、小豆好きにはたまらないのです。今年は何回、何種類の水無月を食べられるかしら。そんなことを考えている梅雨の頃です。


さて、本日より矢野先生の展示が始まりました。今回も展示に向けて先生にお話を伺いました。


●足すことから離れてゆく
釉薬や土、造形をはじめ、昨年初めてされたという彫唐津も、今回の作品を見て感じたことは、とてもシンプルだということ。
伺うと、5年ほど前から足していく作り方から離れようと意識しているとか。釉や土についても、年単位で変化していて、進めていく事もあれば戻る事もある、とおっしゃいます。その言葉通り、昨年の作品から見ても、ぐっと引き算がすすんだように感じます。もちろん、矢野先生の土、釉の感じというものは十分に保ちつつ、作家の名前をふと忘れてしまうような。使い手へ与える余白が広がったように思えます。



No.13 唐津茶碗
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見込み脇に見える巣穴。
土を轆轤でひく際に石が入っていれば、
釉をかけ焼いたあとに石ハゼと呼ばれる1つの景色となる。
対してこれは、石のように焼いても残るものではなく、
例えば植物のような焼けて無くなってしまうものが土に混じり、
焼いたあとにそのものが無くなって、巣のように穴が残るもの。
これも又、面白い景色の1つです。




●自分の作品を見るということ、そしてぶれないこと
『正直、自分の作品はよく見れていないように感じます。想いをもって一生懸命に作りますが、窯から出てくる器は自分の思い描いているとおりにはいきません。想っていた事と違えば違うほどダメに感じます。次の作品に向かい時間がたって、ふとダメだと思っていた物が見れるようになる事もあります。人の作品は長所が見れますが自分の物を見るのは難しい気がします。』そうおっしゃいます。

先生の答えを聞いていて、これって焼きものだけに限らないなぁと思いました。自分のことを客観的に見ることは難しいことです。
しかしながら、この先生のダメという感情、ダメという評価について輪郭がつかめなかったので、さらにお話を伺っていくと、先生の中にはきちんとした芯があることがわかりました。

例えばご自分が作りたいものは古い唐津焼のもつものを、どう今の環境で作っていくか、表現するかということ。だから、『技術的に知識的には常に勉強中なので不安定ですが 心のぶれは無い』とおっしゃいます。心がぶれないのは、自分が追い求めているものはハッキリしていて、そこへの道ではいろいろあるけれど、自分が中心ではないからなのだと。

先生が穏やかで優しくお話される中に見える強さは、追い求めている理想がハッキリしているからなんだと感じました。たいていの人間はその過程で思い悩み、ゴールがわかっていてもぶれるものですが(私なんかその典型だったりします)、自分に足りないものを自覚し、一歩一歩進めていくことが先生の強さなのでしょう。



●一番好きなものは、やっぱり唐津
一番好きなものは、やはり唐津です、と先生。滝川という銘のついている奥高麗茶碗が好きだと教えてくださいました。滝川というお茶碗は個人蔵のお茶碗で、林屋晴三先生のご著書「名碗は語る」(世界文化社)にも載っている奥高麗茶碗の1つ。

林屋先生によると
『少し小振り、見込みが深く、したがって立ち上がりの姿はやや高い。手にして高台を見ると、そこは小さく削り出されていた。高台内に二つある巣穴は、土中に混入して小さな木片を噛んでいたためだろうか、見どころとなっている。側面から見ると胴には轆轤目がゆったりと巡っているのもこの茶わんの特色であろう』とあります。

矢野先生も実際に見る機会に恵まれたそうで、釉調や土の感じがご自分の求めている『憧れ』の奥高麗茶碗、そのものだとおっしゃいます。



●作品の名前について
焼物以外にあまり趣味もなく特にハマっているものはない、と先生。作る上では、なかなか出来ないけれど、黒唐津について今一番考えている時間が長いそうです。普段から古唐津研究会という、陶芸家や器好きの方々で集まって古唐津を勉強される会に参加されている先生ですので、古唐津について勉強され、多くのものを見ておられます。

その中でも、松浦系、勝久(かつきゅう)窯、金石原(かないしばる)窯、武雄系などにはこれぞ『黒唐津』というものが作られてきたそうです。そういうものを多く目にしている先生には、思い描く『黒唐津』があります。

先生が「黒釉」という名前で出されている作品についても、そういう意味ではご自分の中でイメージしている「黒唐津」ではなく、あくまで「黒釉」なのだとか。出すものにたいする強いこだわりと真摯な姿勢を感じます。

また、先生の作品には「奥高麗」という名前の作品がありません。唐津茶碗を奥高麗と名付けるのか、そこには先生の奥高麗茶碗への憧れや強いイメージがあるのだそうです。まだまだ自分の思う「奥高麗」には近づけていないし、一生奥高麗とは付けないかもしれませんし、でもいつか付けたい気もしています。と笑っておっしゃいました。



●最後に皆様へ
『コロナで思う事は早く落ち着いてほしいと願うばかりです。器や唐津で盛り上がる方々とのお食事やお茶などが大好きだし、教わることがたくさんあるので、そういう機会が持てるように早くなってもらいたいです。そして何より、今回に限らず、作り手として見て頂ける事は本当に幸せなことです。矢野直人』




今回は在廊かなわず、お目にかかることができません。とてもとても残念です。

その代りにといってはなんですが、毎日少しずつ、先生ご自身に作品解説をお願いしております。これからご紹介して参ります。
どうぞお楽しみに。


本日分はコチラよりご覧ください。

https://20902445.at.webry.info/202006/article_14.html




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No.6  斑唐津茶碗

『黒田さんでの個展は毎年梅雨時期にやらせていただくので、
年間を通して何か梅雨の季節を感じさせる器がとれた時は個展にと思っています。
今回はこの斑唐津茶碗、山瀬の土で作ってますが
山瀬に斑釉はざっくりした土より釉が流れやすく線すじっぽく流れたりもします。
この茶碗には白の中に水色の点々が出ていたので選びました。』





【唐津 矢野直人展】
開催期間:2020年6月15日(月) ~ 2020年6月20日(土)

Exhibition of YANO Naoto
Exhibition : June 15 to June 20, 2020

於:しぶや黒田陶苑
11:00~19:00


オンライン展示会も同時に開催しております。
ぜひご覧くださいませ。
↓↓
https://www.kurodatoen.co.jp/exhibition/20200615/



【矢野直人/陶歴】
1976年 佐賀県唐津市に生まれる
1994年 アメリカに5年間留学する
2002年 佐賀県立有田窯業大学校を卒業する
2003年 佐賀県立有田窯業大学校嘱託講師として勤務する
2004年 自宅 殿山窯にて作陶を始める
2008年 韓国 蔚山にて6ヶ月作陶する
2015年 割竹式登窯を築窯
以降、各地で個展やグループ展を多数開催する


(恭)


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黒田草臣ブログ: http://01244367.at.webry.info/
しぶや黒田陶苑のホームページ: http://www.kurodatoen.co.jp/