陶房の風をきく~ 飯洞甕窯 梶原靖元展

今年最初の個展は、明日から始まります梶原靖元先生です。
毎年、様々な手で愉しませてくださる先生の作品展にむけて、お話を伺いました。

●呼吸(いき)をするように、ただ風が吹くように

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先生のご自宅兼作業場


そこでは、生活の全部、家の佇まい、周りの景色、空の色、山から吹く風、草木の匂い、近くを流れる川に見えるもの、存在するすべてが焼き物へとつながっていた。

何度か先生を訪ねて陶房へ行かせていただいて感じたことです。

土や釉を一から作られるのはもちろんのこと、家を建てる、水を引く、食事をとる、生活のすべてが、まるで昔の陶工の生活はこうだったのではないかしらと思わせられます。もちろん実際には昔の陶工さんを見たことはないのですけれど。



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西相知駅から陶房へゆく道すがら。



●窯焚きと窯出し
先生がお住まいの佐賀県の西相知(にしおうち)という地域は、一級河川・松浦川が近く、昨年8月の台風でも大きな被害にあいました。避難も余儀なくされたほど激しい雨に、ご自宅はもちろんのこと、隣接する窯は水浸し、大事な土や釉薬も流されたといいます。

そんな中、お正月明けに訪ねると、ちょうど今回の個展用の作品を窯出しされていました。


先生の窯焚きは通常7時間程度。できるだけ短時間で焼き上げます。長時間かけると薪の灰が降りかぶり、汚くなってしまうことを避けるためです。

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窯焚き中




砂岩からの陶土作りは、石の選別に5日間、粉砕に1週間、水簸(精製)に2日、天日干しに2~3か月かかります。轆轤成形は、一気に引き上げます。蹴轆轤による成形は、それはそれは一瞬のこと。焼き物作りのほとんどの時間は、陶土作りと釉薬作りに割かれています。



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颯爽と蹴轆轤をされる先生



窯焚きを終え、2日間冷まし、ひとつひとつ出しては、丁寧に手入れをしてゆきます。

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窯の中に入れていただきました。まるでマグマの塊のような壁。




●肥前狛犬
ご案内状用に送っていただく作品から、その年の作品展の端緒が見えてきますが、今年はその中の一つに珍しいものがありました。「狛犬」です。掌に載せ眺めていると、なんとも愛くるしく、不思議と笑みがこぼれます。


今年のテーマはとお聞きすると、きっぱり。「狛犬」とおっしゃいました。

狛犬といって通常頭に浮かべるのは獅子をかたどったもの。私も先生からお聞きして初めて知ったのですが、狛犬は狛犬でも、先生がおっしゃっているのは「肥前狛犬」のことなのです。



【肥前狛犬とは】
16世紀末から18世紀前半にかけて、佐賀県小城市牛津町砥川地区の石工集団によって主に地元産出の安山岩で制作された。江戸中期以降に一般化する唐獅子型狛犬と比べて小柄で、四肢と胴部の間をくり抜かないなど、デフォルメされた体つきとユーモラスな顔立ちに特徴がある。分布範囲は佐賀を中心に福岡、長崎、熊本各県一部に及ぶ。


普段からとても自由で、大らかな先生。すっかり、ご自分の想像で狛犬をイメージし作っておられるのかと思いきや・・・佐賀、それも先生の陶房の周りでよく見られる実際の肥前狛犬をオマージュしたものでした。


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窯から出したばかりの狛犬


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手入れをしたあと。こだわりの背中。



●作行きの自由なところは、まるで先生の精神のあらわれ?
先生は作陶の合間、朝夕と裏山をお散歩されています。私もお手伝いの合間に、何度か一緒にお散歩へ出かけました。

鉄絵に使われる岩石を見たり、東京では高く売られる茶花たちが自由に咲くのを愛でたり、そこらに生えているキノコを採ったり、時には茶摘みをしたり。(実際に先生はとても美味しいお茶を作って飲ませてくださいます)

東京生まれの私にはそのすべてが新鮮で、葉のすれる音に耳をそばだて、土の匂いを嗅ぎ、茶葉につく虫に怯え、、、一方で自在に自然に溶け込む(溶け込み過ぎる)先生に驚かされます。




今回ご一緒したのは、肥前狛犬巡り。いわゆる大きな神社ではなく、日々ここで暮らしを営む人たちが毎日そっと手を合わせるのだろうと思われる小さな小さな祠。その前にちょこんと鎮座する狛犬。そんな狛犬たちばかりです。



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眉毛のようなものが見える?




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なんともユニークで愛らしい。もはや犬…なのか…???




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苔生し、風化してしまった狛犬



苔生し、風化し、あるいは盗難に遭い、、、対であるはずの肥前狛犬は「お一人様」であったりします。そのため最近ではしまわれてしまって、簡単には見られないところも多いのだといいます。

この肥前狛犬の大らかなところが、先生の精神性のあらわれのような気がしてきました。


また今回の狛犬作品は中を空洞にせず作っています。それは、本来の狛犬が石から削り出され、四肢と胴部の間をくり抜かないように作られているから。陶土の大きな塊は、菊練りによる空気抜きをしても少しの空気で破裂してしまいます。金直しはそれもまた景色となり、カジハラ狛犬を唯一無二にしています。



●永遠のテーマ・・・古唐津
先生の永遠のテーマといえるのは、やはり、古唐津と現代唐津の違いはどこからくるのか、ということ。自然とともにある焼きものつくりの全ての工程について、いつもいつも考えておられます。

例えば、斑釉の作り方一つとってもそう。一般的に藁灰に木灰、長石を調合して作ると言われているが、当時の陶工たちは果たしてどうだったのか、ということに思いを馳せます。藁が貴重だったであろう時代に、燃やしても大した量がとれないのだからなおさら本当に藁から釉薬を作ったのか、、、と考えた先生は、朝鮮半島の古窯を調査したり、当時の生活の習慣や成り立ちから、またご自分で稲作をされたりしたことから、稗を使っていたのではないかと考えました。そして、実際に試してみたといいます。

そういった、「仮説をたてる、確かめる」という研究者のような試みを繰り返しているのも、先生の一面です。窯業の研究者の方と情報交換されるときの先生はまさに研究者。


多くの若手陶芸家さんたちからも、穴窯作りや土、釉薬作りについて意見を求められることを見ても、本当に造詣が深くておられるのがわかります。

そして、このたび西日本新聞でコラム「古唐津点描」も始まりました。土日を除く週5日、3月20日まで続きます。


西日本新聞.jpg全50回。好評連載中です。


文章はもちろん、挿絵も先生ご自身の作。ぜひご覧ください。当苑でも新聞複写をご用意しております。
http://c.nishinippon.co.jp/announce/2020/01/047461_post-851.php



狛犬以外にも、愉しく新しい作品がたくさん並びます。
陶房の風をぜひ感じていただければ幸いです。ご来苑お待ちしております。





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陶房に鎮座する狛犬








【飯洞甕窯 梶原靖元展】
開催期間:2020年1月31日(金) ~ 2020年2月4日(火)

Exhibition of KAJIHARA Yasumoto
Exhibition : January 31 to February 4, 2020

作家在廊日:1月31日(金)~2月2日(日)




(恭)



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