陶房の風をきく ~菊池克展2019

ようやく秋になりました。
どこにも姿を見せず薫っていた金木犀も、いつのまにか終わり、
気持ちのよい青空が見える、本当に良い季節です。
さて、菊池克先生の個展が今年もいよいよ明日から始まります。

毎回、全身全霊をかけて準備をしてくださる克先生。
そんな克先生に、個展に向けてお話を伺いました。



●踊念佛陶印について
今年送ってくださった作品の中で、真っ先に目に留まったもの、
それがこの陶印でした。


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踊念佛陶印 六 (南無阿弥陀佛) 



鎌倉中期の僧一遍上人入寂十年に弟子たちの口伝を元に
上人の遊行の様子を描いた絵伝を繙くと
当時の風俗が鮮やかに伝わってきます
寺の門前にたむろする乞食達や癩病患者など、今より死の匂いが直接的に感知できる時代
文盲の庶民にとって念佛を唱え躍れば浄土に行けるというメッセージはどれだけ強い衝撃だったのか
きっと死にもの狂いの踊りだったのでしょう
そんなことを想いながら この陶印をつくりました


そう添えられて届けられました。大変躍動的で、一見楽しげに見えるこの作品には、そんな想いが込められているのです。

いったい克先生がどうしてこのような想いを感じ、作品に込められたのかを伺ってみたくなりました。
すると、私が想像していたよりももっと強い衝撃を受け、到った想いだったようです。


『昨年友人の妹がスイスで安楽死することを選択し、実行しました。私も何度かお会いしたことがあったので大きな衝撃を受けました。 久々に死は齢に関係なく必ず訪れるものだと強く思い、それを怖いとも思いました。

この出来事が一つ、恐怖心の克服手段として、「踊る」、という発見をした踊念佛に関心を持ったきっかけでした。現在より病や老いが死に直結する時代、当時の人々はより死を身近に感じ、その後の世界を信じ、極楽浄土に行くため文字通り死ぬ気で踊り狂っていたと思います。

正直なところ現在の私にはそれほど切羽詰まった覚悟はありませんが、生きている今を悦び味わうことを忘れないようにしようという、メメント・モリ的な自戒として、このような立体作品が座辺にあるといいな、と思い作りました。』


焼きものというものは、作家さんそのものを映す鏡のようなものであり、またそれを癒しであったり、愉しみであったり、使い勝手のよいものであったり、もちろん美意識のもとであったり、様々な形で見る側に寄り添ってくれます。



●蓮などのモチーフについて
先生の陶房のお名前は陶迦葉(とう かしょう)。迦葉というのはお釈迦様の十大弟子の一人なのだそうです。そのお名前をいただいていることからも、どことなく仏教の香りがしてきます。そんな理由から選ばれるのかしらと思いましたところ、、、

先生の住む国東(くにさき)は仏の里とも呼ばれ、仏教文化の足跡がそこかしこに残されている環境なのだそうです。

『敢えて仏教的なものを選んでいる訳ではないのですが、そのようなモチーフを作ることはここでの生活から自然と湧き出ているのかもしれません。』

そうおっしゃる通り、国東という四季が豊かにあり、大自然の恵みの中で生活し、作陶をされることは、その地のあらゆるエネルギーを吸収し、それが作品に自然と出てくるのだということが改めて感じられます。



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●器作りは私小説のようなもの
先生の作品は、茶碗、花入、酒器、食器から文具まで様々。また、唐津あり、韓国古陶あり、手も様々。
各展示でテーマがあるかと思いますが、それぞれどのような心の有り様なのかと伺ってみたところ、

『器作りは私小説のようなものだと最近ふと思いました。酒が飲みたいから酒器を作る、茶を飲みたいから茶碗を作る、手紙を書きたいから文房具を作る。その時時によって思い入れの多寡はありますが、心に過ったものを欲しいなと思って作る、という意味では心の有り様は同じだと思います。』

そう教えてくださいました。



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●やきものに挑んでいく
唐津で修業をされ、大分県国東半島に築窯され独立して11年を迎えた克先生。
昨年の個展後、しばらくいろいろ考える日々が続いたと伺いました。

私はお陰様で作家さんの作品に毎日触れ、日々新しい作品を目にします。
作家さんが1年、もしくは2年、3年と過ごされたその時間、経験、想いの凝縮、つまり作品を待つ立場にあります。

作家さんとお話をするときいつも思うのは、毎日、何をしていても、作品のこと、やきもののことをずっと考えておられるんだなということ。それは楽しいことばかりではないはずです。

どんな時間を過ごされたのか、何を考えて来られたのか…在廊される間に話してくださる先生もおられれば、話さずとも感じる先生もおられます。それがここで働けることの一番の醍醐味です。


『エンドレスに辛い、苦しいことの繰り返しを自分で選択してやれることがたのしいです。』

そうおっしゃる克先生のほほえみが目に浮かびます。本当にいつも穏やかなのです。
バタバタしてますよとおっしゃっても、長い苦悩の姿も、まるで白鳥の水かきのように水面下で見えないのです。



●ユーモアも常に忘れない
たくさんのギャラリーさん、お料理屋さんをはじめ多くのお客様との素晴らしい出会いをされ、とても順調のように見えます。
何も手に付かないほどの苦悩はあっても、そこは克先生。常にユーモアを忘れていません。

今年拝見していて、本当に様々なチャレンジをされて来られたと感じます。
苦悩を抱えながらも前に前に。

『自分のバックグラウンドは、江戸、スペイン、唐津、国東となります。
いま密かに温めていることがありますが、またのお楽しみということで。』

これからもどんな克陶を見せてくださるのか、本当に楽しみです。


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今回も様々なバリエーションの蓮をはじめ多くの作品が並びます。
語りきれない克先生の作品の魅力をぜひご覧くださいませ。
お待ちしております。




【菊池克展】Exhibition of KIKUCHI Katsu
開催期間:2019年11月8日(金) ~ 2019年11月12日(火)
Exhibition : November 8 to November 12, 2019


作家在廊:基本的に全日程終日(予定)



<菊池克 / 陶歴>
1972 東京生まれ
1996 青山学院大学経済学部卒
   スペイン留学 美術学校で陶芸を学ぶ
2001 中川自然坊に師事(唐津)
2008 大分・国東に登り窯を築窯
2010 初個展(別府・三昧堂)
2012 個展(京都・川口美術)
2013 韓国・通度寺にて作陶
2014 個展(東京・しぶや黒田陶苑)
   他 各地で個展・グループ展を行う





国東半島にある先生の登窯
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今年の3月初旬に伺ったとき
なぜかものすごい大雨でした…





(恭)



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