陶房の風をきく ~漆藝 太田修嗣展

毎年お願いしております太田先生の個展。明日より始まります。
この時期が来ると、もう師走が来るのだと感じるようになります。

個展を迎えるにあたり、先生にお話を伺いました。


●木への親しみ
太田先生は、一般的な漆器産地のように分業でのお仕事ではなく、原木の仕入れから、木地づくり、塗りまで、全ての工程をお一人でされます。陶芸家が土に強いこだわりを持つように、木そのものへの強い想いをもつ先生。その想いの始まりは…

「高熱にあえいだ幼い頃、天井板の木の節や木目が怪物に見えました。以来、ずっと木に親しみを覚えています。」とのこと。

私も小さい頃、先生と同様、自宅の和室で寝ることがあったとき、見上げると天井の木の節や木目がこちらを見て笑っているみたいで、ちょっと怖かったことを思い出しました。



●高杯について


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DM掲載の作品にもなっている高杯。こちらは一筆小卓とも名付けられています。

もともと古くから、高杯と呼ばれる漆のものは存在していますが、それは通常、お盆としての用途が多い盛り皿。天板の部分には縁があることがほとんどです。それでは用途が限定されてしまうと考えた先生は、天板部分を平面にしたそうです。そうすることで書き物もでき、新たな用途が広がります。


そもそもこの高杯を作ったのは、足の部分の三角材があったからなのだそうです。これ面白いなぁ、何か使えないかなぁと思ったのだとか。

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天板に使われた木は、穴が開き、木目も美しい



●料理が主役、器は脇役
お料理は器に盛りつけられてこそ美味しくいただけて、豊かな満足感が与えられるという先生。

またこうもおっしゃいます。漆器の魅力の一つには軽さと保温性、断熱性があり、器を持って口づけて食するという日本独特の生活にあった、つまり日本人に優しい器が漆のもの(箸も含めて)だと。その考えから、使うときにいかに使いやすいか、ということが先生の作品つくりの根底に大きく関わっているのです。


例えば、こちらのレンゲとスプーン。

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毎年多くの太田先生ファンの皆様に絶大な支持を受けています。その理由の一つは、口入りの良さ。

すくった食べ物を口に入れたときに、「つぼ」の部分が深いと食べ物がうまく口に入れられず残ってしまいます。また、「つぼ」の裏が大きく張り出していると、口入りが悪い。



口にすっと入るように、表は薄く、裏のカットは細やかに。
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そこのところは意識して工夫しているとおっしゃる先生。

お匙の細かなところまで、使うことをよく考えられたつくりになっています。実際に使われたお客様からは「これを使ったら止められないわよ」とのお言葉をいただきました。



●とにかく普段から使って欲しい
普段からどんどん漆器を使って欲しいとおっしゃる先生。手取りの軽さに、優しい木のぬくもり。口当たりのまろやかさ、と挙げればキリのないほど良さがあるのが漆器。

もちろん、塗りの経年変化もその魅力の一つです。根来塗は朱い漆の下に塗った黒漆が見えてきたり、溜漆もだんだん明度が上がります。



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先生オリジナルの錫黒(黒漆に錫粉を混ぜたもの)


こちらも時間が経つと、黒漆が少し落ち着いて錫の色が透けてくるのだとか。真っ黒の黒漆もステキですが、この錫黒は光のあて方によって、かすかにブラウンのようなシルバーのような、上品な深みのある色合いとなっています。


以前、乾漆の回にも書きましたが、基本的には

「人が口に入れられるものはすべて。人が食べられる温度や酸味、油分や硬さであれば。」何でも載せて大丈夫なのだそうです。

使ったあとの洗い方も簡単です。柔らかいスポンジでお湯か水で洗い、すぐにタオルで拭けば大丈夫です。もちろん肉料理などの油よごれには洗剤を使います。


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お菓子を載せて。



●お茶目な先生
個展数日前のこと。先生からリストが送られて来ました。今年はこんな作品が来るんだと、作品名を拝見しながら妄想していました。あんなのかな、こんなのかなと読み進めていくと、見慣れない言葉が。

「穴開キーロクロ目盆」「穴開キー角切盆」
・・・穴開き?穴開きー?え?きーって?伸ばすの? 

作品がまだ到着していなかったので、これはなんだ?なんだ?と思いながら、先生にお電話で伺ったところ、、、あっさり「伸ばすんですよ」とお返事が。へぇそうなんだ、と思いながらも何だかしっくり来なかった私は、翌日他の用事でお電話したときに、再度チャレンジ。

あれは伸ばすんでいいんですよね??と申し上げましたら、先生は「こだわるねぇ」と、とうとう笑いながら教えてくださいました。


穴開キー = アナーキー(無秩序な状態のこと)

穴が開いた木をお盆に使うなんて、アナーキーでしょ?かけてるんだよ。名前で遊んでしまいました、と。


あぁ、なんと無粋なことをしてしまったのでしょうかと思いつつ、やっぱりそうだったのかとガテンがいったのでした。電話の先でいたずらっ子みたいに笑う先生を想像しつつ、こちらも大笑いしてしまいました。



そんなお茶目な先生の「穴開キー」作品はこちら。
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実際には無秩序どころか、美しい木目と轆轤目のお盆でした。そのうねりの中にぽっかりと開いた穴は、違和感なく、しかも力強く目に飛び込んで来たのでした。






これから年末を迎えるにあたり、どうしてもバタバタと忙しなくなる頃。そろそろお正月の準備も始めたい頃でもあります。
生きることは食べること、とおっしゃる太田先生のうつわを手に、年末年始はゆっくりと美味しい時間を過ごされませんか?

ぜひお手にとって確かめていただきたい作品がたくさん並びます。ご来苑をお待ちしております。





【漆芸 太田修嗣展】
2019年11月29日(金) ~ 12月3日(火)

Exhibition of OTA Shuji
Exhibition : November 29 to December 3, 2019



<作家在廊日>11/29(金)~12/1(日)



≪太田修嗣 略歴≫
1949年 愛媛県に生まれる
1981年 鎌倉にて漆塗り職につく
1983年 村井養作氏に蒔絵を学ぶ
1988年 神奈川厚木にて独立
1991年 当苑にて個展
1993年 生まれ故郷の松山市にほど近い砥部町に工房を移す





(恭)



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