陶房の風をきく ~猫と茶碗 大塚茂吉展

急に冬が近づいて来たようにぐっと寒くなりました。
マフラーやウールのセーターなどが恋しい今日この頃です。

明日からは3年ぶり2回目、大塚茂吉先生の展示が始まります。

そこで個展に向けて先生にお話をお聞きしました。



●タイトル「猫と茶碗」
大塚先生は主に女性像や手、猫像と茶碗を造っておられます。

『そのなかで、「猫と茶碗」という組み合わせが面白いと思いました。タイトルが文学的で不思議な響きがあります。』と大塚先生。



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図録の題字も先生の自筆です



●土について
イタリアの陶都ファエンツァに5年間暮らし帰国。その後2006年以来、年に3カ月ファエンツァで制作し、イタリア国内で発表。日本やパリ、ニューヨークなどにも送って発表するという事を10年以上、今でも続けておられます。
イタリアでは粘りがあり成形しやすいドイツの土を数種類、日本では信楽の赤土を使われています。日本の土は繊細な表現をする時に効果があるように思っておられるのだそうです。



日本で作られた信楽の土を使ったお茶碗
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*白く線のように見える部分はカオリンを象嵌したもの



赤く見えるのは鉄の多い土、茶色に見えるのはマンガンを多く含んだ土
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一見、筆で描いたように見えるのですが、象嵌を施したお茶碗
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*こちらはドイツの土



●焼成について
窯はほとんどが電気窯で、テラコッタは1060度、焼締1250度で焼いておられます。
テラコッタは鉄分が溶ける前の段階ですので柔らかさを残し、逆に焼締ると土の素材が変化して金属的になり、物としての強さが出るのだそうです。



1250度で焼いた作品
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*作品右 No.22猫・頭Ⅱ



日本で作られ、今回唯一穴窯で焼かれたお茶碗
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●新たな表現、風穴による奥行き
今回発表する猫と手の作品には、象嵌の白い点にアットランダムに風穴が空いています。これは前回にはなかった表現だそうです。そのことについて伺いました。

「この無数の白い点には様々な理由を付けて語ることが出来るのですが、一つには、形に生命感のあるリズムを加えたのだと思います。象嵌した白点に風穴が空いたことで、その生命感のあるリズムに、光と闇、生と死を感じさせる奥行きが出たように思えます。又、焼き物の物質感が削ぎ落とされて、以前より軽やかな感じを受ける様になりました。」とおっしゃいます。



●西洋と東洋の文化の融合
≪ふりむく猫 iii≫に込められたもの
「女性的なラインを持った猫のフォルム…偶然的な要素を一切取り去って完結で堅固なフォルムを追求しました。その上で、白土の象嵌には偶然性のある風穴が空いています。この完結なフォルムの追求はイタリアで学び、偶然空いた風穴の表現は日本で生まれました。
西洋と東洋の文化が融合した、一つの表現だと思っています。」



●動と静
猫像について、前回の個展の際「古代の神秘に繋がり、現代に蘇るような神聖な猫像を造りたい」とおっしゃっておられました。そのポーズに何か大きな特長があるように思いましたので、伺いました。

「古代エジプトの聖なる猫像は、直立して静止した姿です。聖像は動物であれ神の像であれ静止したポーズで表現されることが多いと思います。動きのあるフォルムは神聖感が損なわれる場合が考えられます。
猫像を造り始めた頃、古代エジプトの聖なる猫が動き出したらどうだろうと思った事がありました。動きがあるのに静止している。動と静、相反した要素が同時にある表現が、私の課題です。」

例えば、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」の大波の図。
「驚くほどダイナミックな動きがあるにもかかわらず、画面はその一瞬を切り取ったように静止している。偉大な芸術表現だと思います。」と加えてくださいました。

普段の先生から醸し出される「静」なるエネルギーが、猫像には増幅した形で生命感や躍動感を感じます。まるで流れるように滑らかな猫の動き、一瞬を切り取る、その表現はなるほど、北斎の神奈川沖浪裏に通じる「動と静」を感じさせます。



●お茶碗の世界観
猫像とはまた違った表現の一つ。先生のお茶碗には手びねりの柔らかさがあります。茶碗であって茶碗でない、心が宿っている様な、存在感のある形。自然に、ほんの少し形を逸脱して自由な表現が出来たらとおっしゃいます。

また、こうもおっしゃっています。
「茶碗は一つの世界。そうすると、あらゆる部分は全体のバランスの中にあり、形も釉薬も、互いがその関係性の中で成り立っています。そして炎によって、人知を超えたようなことも起きるのです。まるで自然界のように、様々に相反する要素がありながら調和している。そんな茶碗が出来ればと思います。」



●土という物質にいかに精神性を込めるか
いま、先生の心に影響をしていることについて伺うと、これからの課題、それは制作についてだけではなく人類全般の課題について考えるとき、最近話題になったある少女の行動にもつながる想いがおありでした。

「スウェーデンの16歳の少女グレタさんが、命をかけて地球温暖化の危機を訴えました。
この10年間が、地球をホットハウスアースに変えてしまうか、踏み止まるのかの分岐点だと言います。未来、北半球の土地の4分の1の永久凍土が溶け出すと空気中に大量の炭素やメタンガスが放出され、地球温暖化を加速してしまいます。世界の平均気温が4度~5度高くなり、北極圏は10度上がり、海面は10m~60m上昇すると言われています。

この人類最大のセキュリティ問題をどうすれば良いかが、私達の緊急な課題だと思います。この地球環境の危機は、精神を置き去りにした物質文明が、臨界点に達した結果であると思います。精神文明と物質文明を、弁証法的に止揚した新たな文明を私達は築き上げなければなりません。

私にとっての課題は、土という物質に精神性を如何に込めるか、宇宙的な生命感のある作品を造る事が、新たな文明を築く潮流に合致するものと思います。」

このお話からも、先生の猫像に相対するときに感じる、壮大な動と静のパワーには、地球規模の生命観が大きく影響し、込められているのだということがよくわかります。



●新たな表現へ、そして再始動する平面の表現
かつて、抽象的な造形や抽象画を描いていた時期があり、イタリアから帰国して以来、具象表現になったという先生。今後は抽象性と具象性を合わせ持った新たな表現を追求したいとおっしゃいます。
また、絵画から始まった先生の創作活動。今後は休止していた平面の表現もやりたいと教えてくださいました。

今回の絵も、和紙を重ねたり様々なことをされています。
体系的に学んで来た絵画の技法をいかに取り去っていくか、ということを念頭におかれたのだとか。

やりたいことがたくさんあってね、とおっしゃりながらニッコリされる姿が、心の底から楽しそうだったのが強く印象に残りました。




今回の会場展示も先生の手によるものです。
ひとつひとつ想いが込められた作品を、丁寧に並べておられました。
作品に当てた照明も先生の感性に沿っています。

先生のこだわりの詰まった作品、そして空間。
実際に足をお運びいただき、ぜひ感じていただきたいです。
ご来苑お待ちしております。


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【猫と茶碗 大塚茂吉展】
2019年11月22日(金) ~ 11月26日(火)
Exhibition of OTSUKA Mokichi
Exhibition : November 22 to November 26, 2019

作家在廊:会期中全日程






(恭)

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