湖畔の水面  ー 『伊藤秀人展』より 「鏡玉」 ー

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「青瓷鏡玉」

凸レンズから着想を得たというその形状は単なる円盤ではなく、上面は僅かに弧を描いている。表面張力で器に湛えた水が盛り上がる様に、厚く施釉された青瓷釉が器胎全面に満ちている。
 合子ではなく、厚みのあるレンズ状の器胎はしっかりとした重量があるが、胴の縁が僅かに中央よりも上部にあることで底部の周りに影が生まれ、浮遊しているような軽さも視覚的には感じる。

 
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 伊藤は2016年から側面だけで底部のない「輪」や、円錐形の「先」といった造形作品を発表している。これらは彼が創作の拠り所としている古典作品の持つ「青瓷」の美しさを抽出したような作品であった。宋代を軸とした「青瓷」の釉調、色彩は勿論、その根源とも言える「玉」の質感や精神性、「金属器」の量感や緊張感といった要素も多分に感じ取ることが出来るが、「鏡玉」もそうした一連の創作の中から生まれた作品と言えるだろう。
 古い小説等からあてたという「レンズ」ではなく「鏡玉」という作品名も、単なる形状への説明という枠を超えて「青瓷」の持つ重層的な歴史を、この新たに生まれた姿に重ねたくなる言葉である。

 その肌はしっとりとした潤いを保ち、抽象化された造形からも、作品を鑑賞しているというよりも、何か静謐な湖畔の水面の揺らめきを眺めている様な心持ちになる。同時に器胎の縁に僅かに段差を設け、鋭角な線を生み出し心地よい緊張感も感じるのである。


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 その爽やかな青瓷釉は光によって色彩が階調をもって変化し、一日の陽の光をどの様に留め置くのか机上で愉しみたくもある。上面だけでなく、底部全面にも施釉され、底面には汝窯の作品の様な六ヶ所の支釘跡が見える。その小さくも、くっきりとした跡からも、単に作家の表現の発露としてやきものを用いるのではなく、古典から現代へと地続きに繋がる「青瓷」の美しさを伊藤なりの方法で掬いとった結果がこうした造形作品であることに気付かされる。


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伊藤秀人  鏡玉      21.1 / H2.8cm



【青瓷 伊藤秀人展】  Exhibition of ITO Hidehito
2019年5月31日(金) ~ 6月4日(火)   
※作家在廊予定日:5月31日〜6月1日・6月3日〜4日



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