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zoom RSS 大和川急雨 富本憲吉と「模様」 【ひとりたのしむ 昭和陶藝逸品展】より

<<   作成日時 : 2018/12/22 19:53   >>

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「模様より模様を造る可からず」
富本憲吉の余りにも有名なこの言葉は、単に自らが考案した新たな文様への言及という意味だけではなく、作家としての「創造性」への重要視からの言葉と言っても良いだろう。


 1910年(明治43年)。東京美術学校を卒業したばかりの富本は共通の知人を通じて、当時東京に住んでいたバーナード・リーチと出会う。富本24歳、リーチ23歳の頃。それから1920年のリーチ帰英まで、二人は頻繁に互いの家を行き来するほど深い友情を育み、その親交は最晩年まで続く。
 1911年、青年美術家達の会合の余興で2人は初めて楽焼に触れ、すっかりと夢中になり、リーチは六世乾山に入門する程であった。リーチの通訳として富本も連れ添い、彼から度々やってくる楽焼の質問の手紙を翻訳し答えるうちに、自ら実験する必要に駆られ、自宅の庭に折り畳み式の移動可能な楽焼の窯を設置する。1913年(大正2年)富本27歳の時。「陶芸家の父」とも称される彼の「陶芸家」としての第一歩と言えるだろう。
 その後すぐ本窯を築き、本格的に陶芸へとその道を進める中で、彼は単に技術面の向上を望むのではなく、その根幹となる作家としての思想を固める。それが冒頭の「模様より模様を造る可からず」という思想である。

 既に古典の型となった既存の模様ではなく、自らの眼で捉え、自らの手で写し取った身近な風景を繰り返し、繰り返し用いることで新たな型となる「模様」を創り出す。当時生家である奈良県成駒郡安堵町に住んでいた富本をリーチが訪ね、二人自転車や散歩しながら簡単なスケッチを重ね、美術について語らっていたという。そうした中でこの富本芸術の根幹をなす思想が生まれ、そこから彼の代表的な「模様」と言える「竹林月夜」や「曲る道」、そして「大和川急雨」が生まれるのである。


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安堵町で制作を行っていた通称「大和時代」。窯場の近くの小川、大和川で春から秋にかけて、富本は毎日の休養として釣りを楽しんでいた。ある日急に夕立が激しく降り、傘を持っていなかった彼は、崖のような所に身をかがめ、薄の葉を傘にしてこの景色を眺めていたという。記憶しようにも絵筆も鉛筆もなく、マッチを吹き消して炭にして、煙草の箱の裏に略図を描いた。『大和川急雨』誕生の瞬間である。
 箱の裏に記された略図は作品として描かれ、その器体を皿や陶板と様々に変えながら、また構図もより単純化され、単なる個人的な風景描写ではなく、何か普遍性を持った心象風景へと変容していく。


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裏には五十年記念展の出品札がそのまま残されている


 1923年(大正12年)、37歳の時に生まれたこの「模様」を描いた陶箱を、1961年(昭和36年)『作陶五十年記念展』の図録の冒頭に掲げている。それが本作である。
六角の陶箱の表には一軒の小屋と小さな橋が見える。夕立の強い雨は小屋の周りの木々を大きく揺らし、その風が聞こえてくるかのようである。箱書き同様その人柄を感じさせる「大和川急雨」の文字にはそれぞれ薄く呉須が重ねられ、さながら雨の雫が字を濡らしたようにも見える。磁土の美しい白を生かすかのように余白は大きくとられ、それを引き締める為だろうか、縁には丁寧にかつリズムよく縦の線を引いている。
 底部裏には六角の形を生かして、六角の枠を描き、中に書かれた「富」の印から1961年の作だと分かる。


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 1955年(昭和30年)、第一回の重要無形文化財技術保持者(色絵磁器)に認定され、特に金銀彩の華やかな大作を意欲的に取り組んでおり、この1961年の秋には文化勲章も授章する程名実ともに日本陶芸界の中心にいた富本憲吉。75歳という年齢の彼がこの染付の一見静かな作品に込めた思いは、決して若き頃の友情や、美術に対して熱き議論を交わした日々を穏やかに回顧する気持ちではなく、常に曲げることなく軸として持ち続けた「模様」へ、そして「創作」への強い思いではないだろうか。

 本作を発表した二年後、1963年(昭和38年)、富本憲吉は肺がんのため逝去する。77歳であった。戒名はなく遺言には「墓不要。残された作品をわが墓と思われたし」とあったという。


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